こんにちは、医師ハルハクです。

先日、RS3PE症候群が強く疑われる患者さんの診察をしました。

70歳代の男性の患者さんでした。

RS3PE症候群は、整形外科の診療をしていると、その疾患を疑うケースがときどきあります。

しかしこの疾患は、あまり知られていなかったり、見逃されがちなので、ここで記事にしました。

【RS3PE症候群とは何か】

RS3PE症候群とは、Remitting Seronegative Symmetrical Synovitis with Pitting Edemaの略です。

それぞれの単語の意味は、

Remitting :寛解
Seronegative: リウマトイド因子陰性
Symmetrical :対称性
Synovitis (滑膜炎)
Pitting (圧痕性)
Edema(浮腫)

になります。

直訳すると、
「寛解する、リウマトイド因子陰性、左右対称性の滑膜炎、圧痕性浮腫を伴う症候群」となります。

1985年にMcCartyらによって初めて報告された疾患です。

高齢者に急に発症する関節炎の一種です。

関節リウマチとよく似た症状を示しますが、いくつかの特徴により区別されます。

病因は未だ不明といわれています。

【どういう人に多いか?】


RS3PE症候群は、以下のような方に多く見られます。

• 高齢者(60〜70歳以上)
• やや男性に多いとされます。

【症状】


RS3PE症候群の以下のような症状が生じます。

• 両手背(手の甲)や両足背(足の甲)の浮腫(むくみ)
→ 特に圧痕性浮腫が特徴的で、軽く押すと指のあとが残ります。

• 手関節、指(PIP関節)、足関節、足根骨などの関節痛や腫れ
→ 左右対称性に出現します。

• 全身症状として、微熱、貧血、全身倦怠感を伴うこともあります。

関節リウマチと似ていますが、リウマトイド因子(RF)が陰性である点や、浮腫が強い点が鑑別のポイントです。

もっとも特徴的な症状は、両手背と両足背の圧痕性浮腫といえます。

【診断方法】


確立された診断基準はないとされていますが、McCartyによると、

1. 50歳以上
2. 急性の発症の両側左右対称性の多関節炎
3. 両手背に強い圧痕性浮腫
4. リウマトイド因子陰性(seronegative)

この4つをすべて満たすこととなっています。

<血液検査>


リウマトイド因子(RF):陰性
抗CCP抗体:陰性
MMP-3、CRP、ESR(赤血球沈降速度):上昇することが多い

<レントゲン(単純X線)>


骨びらんや骨破壊が通常ないことが、関節リウマチとの鑑別になります。

<超音波検査>


関節や周辺の腱鞘滑膜まで滑膜炎の所見がみられることがあります。

【鑑別】

・高齢発症の関節リウマチ(EORA) →浮腫は少ない
・PMR(リウマチ性多発筋痛症) →肩関節痛などが主な症状

【悪性腫瘍との関連】


RS3PE症候群の悪性腫瘍の合併は27〜55%という報告もあります。
悪性腫瘍としては、胃がん、大腸がん、前立腺がん、肺がんなどがあります。

腫瘍マーカー(CEA、SA19-9など)の測定も参考となることがあります。

ステロイドによる治療に抵抗性があり、腫瘍随伴性RS3PE症候群を考える場合には、癌の精査が必要になることがあります。

【治療】


ステロイドの内服が効果的です。

通常、PSL(プレドニゾロン)を低用量(10〜15mg/日)から開始すると、速やかに改善がみられます。

ステロイドに抵抗性がある場合は、MTX(メトトレキサート)の併用が必要なこともあります。

一般的には数週間〜数ヶ月で寛解し、漸減・中止できるケースも多く、関節リウマチと比較して、予後は良好とされています。

しかし、

・ステロイドへの反応が乏しい場合は、悪性腫瘍の合併も疑われる。
(腫瘍随伴性RS3PE症候群)

・長期のステロイド投与が必要な場合は、骨粗鬆症や感染症のリスクが上昇する。

上記については、特に注意が必要です。

【まとめ】


・比較的高齢で急性の手関節炎があり、両手背や両足背に圧痕性の浮腫を認めたら、RS3PE症候群を疑う

・ステロイドの内服が効果的

・悪性腫瘍の存在は常に念頭におくことが重要

単なるむくみや関節炎と思わずに、悪性腫瘍などが隠れている可能性もあることを考慮しながら、診療にあたっていきたいと思います。

内科の先生との連携も重要ですね。