こんにちは、医師ハルハクです。
先日、手関節の痛みを訴える高校生の診察をしました。
運動部のお子さんでした。
手首、特に小指側(尺側:しゃくそく)に痛みが続く原因として、TFCC損傷という疾患があります。
スポーツ選手や日常生活で手をよく使う方に見られることがあり、放置すると長引いてしまうこともあります。
我々整形外科医でも筋肉や腱の痛みと区別が付きにくいこともあって注意が必要な疾患です。
そこで今回は「TFCC損傷」について記載していきます。
【TFCC損傷とはどんな疾患か】
TFCCは、英語で「Triangular Fibrocartilage Complex」の略です。
日本語では、「三角線維軟骨複合体(さんかくせんいなんこつふくごうたい)」といいます。

TFCCは、手首の小指側(尺側:しゃくそく)にあるクッションのような軟骨と靱帯の集合体で、
• 手首の安定性を保つ
• 小指側の衝撃を吸収する
などの役割があります。
この部分に損傷がおきると、手首の痛みや不安定感が生じるのです。
【原因】
TFCC損傷の原因は大きく2つあります。
1. 外傷性(ケガ)
• 転倒して手をついたとき
• スポーツで強い力が加わったとき
• 重い物を持ち上げたとき
2. 変性(加齢や使いすぎ)
• 繰り返しの動作による摩耗
• 加齢による軟骨や靱帯の変性
特にテニス、ゴルフ、野球、体操などで、手首に負担がかかるスポーツではリスクが高まります。
【症状】
典型的な症状として以下のものがあります。
• 手首の小指側の痛み
• ドアノブを回す、ペットボトルをひねる動作、タオルを絞る、包丁やハンマーを使うときに痛む
• 重い物を持つと手首が不安定に感じる
• カチッとしたクリック音(クリック感)がする
痛みは軽くても、繰り返すうちに悪化することがあります。
【診断方法】
身体検査(徒手検査)
・ulnar fovea sign(尺骨小窩(しょうか))の圧痛
・ulnocarpal stress test :手関節が最大尺屈位の状態で他動的に回内外を行うと痛みが誘発
・DRUJ ballotment test:尺骨頭を徒手的に背側、掌側に移動させて不安定性をみる
など
画像検査
• X線:骨折や関節の変化を確認します。TFCCの直接的な評価はできません。
• MRI:TFCCの損傷を直接評価できる有用な検査です
• 関節造影:損傷部位の詳細を確認するために行うこともある
【治療】
保存治療 (第一選択)
• 安静、手首の固定(サポーターや装具、ギプスシーネなど)
• 鎮痛薬の使用(内服、外用)
• 注射(ステロイドなど)
• スポーツや仕事の動作制限
• リハビリテーションによる手首周囲筋の強化
軽度の損傷では保存療法で改善することも多いです。
手術 (数ヶ月の保存治療で改善しない場合や重度の損傷で行われることがあります)
保存療法で改善しない場合や、重度の損傷では手術を検討します。
• 関節鏡手術(鏡視下手術):損傷部を縫合、または部分切除
• 直視下
• TFCC再建術
• 尺骨短縮術
など
手術後はリハビリテーションを行い、徐々に日常生活やスポーツ復帰を目指します。

まとめ
• TFCCは手首の小指側を支えるクッションの役割を持つ軟骨である
• 損傷すると、手首の痛みや不安定感の原因になる
• 診断には徒手検査とMRIや関節造影検査が有用
• 保存療法で改善することも多いが、必要に応じて手術も選択肢となる
手首の痛みが長引く場合、早めに整形外科を受診して正しく診断を受けることが大切になります。
あなたやあなたの周りのかたに、手首の痛みがある場合は、早めに整形外科に受診されてくださいね。
早期の治療介入が痛みを楽にさせてあげることにつながります。
正確な診断がなされずに、痛みで困る患者さんがいなくなることを願っています。